目次
変形性股関節症とは
▽股関節の形態
▽変形性股関節症の原因
▽変形性股関節症の進展様式
▽病期とレントゲン像の評価
▽増殖型と萎縮型
治療法
▽治療の原則
▽関節温存手術
人工関節手術とは
▽人工股関節置換術
▽低侵襲(ていしんしゅう)手術と早期回復について
小児の股関節疾患
[1] 先天性股関節脱臼
[2] 乳児化膿性股関節炎
[3] ペルテス病 大腿骨頭の骨端軟骨の障害
[4] 大腿骨頭すべり症
よくある質問
治療法
変形性関節症
一般に、変形性関節症は、関節軟骨の経年変化(軟骨の老化)を主体として生じる病態で、その多くは60歳以降に発症します。整形外科医が最も多く診療する変形性関節症は膝関節症といわれています。変形性膝関節症において、70歳以降では正座が困難になる方が目立ってくる事実は一般の方にも理解しやすいと思います。
また中年以降の女性では手指の変形性関節症として、手指の一番先の関節がゴツゴツと節ばって変形してくることが少なくありません。これを関節リウマチではないかと心配されて外来を受診される方も多いです。このように変形性関節症は中年以降に目立ってくる病気と考えられます。
変形性股関節症 治療の原則
日本における変形性股関節症の特徴は、その80%以上が基盤に何かしらの解剖学的問題(形態的な異常)を有しており、他の関節症とは様相が異なる点です。従って形態的な異常が大きければ若年で発症する場合も多く、欧米に比べその治療対象年齢は低年化傾向にあります。
このため、治療にあたる医師は、解剖学的問題を生じる原因となる先天性股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭辷り(すべり)症などの小児の股関節疾患に対する理解、できれば治療にも精通していることが重要です。
変形性股関節症の治療には運動療法、理学療法、薬物療法などの保存療法と、手術療法とがありますが、その成因が股関節の形態異常であることから、保存療法はあくまでも補助的手段であり、股関節機能の改善には最終的には手術療法が主体となります。手術療法の内容を年齢と病期から考えてみると、以下の3グループに大別されます。
- 青壮年期の前・初期股関節症に対しては、寛骨臼(かんこつきゅう)回転骨切り術や寛骨臼移動術などの寛骨臼周辺を操作する手術が一般的で、除痛と共に関節症の進展予防が目的となる。
- 青壮年期の進行期・末期股関節症に対しては、大腿骨外反骨切り術、キアリ骨盤骨切り術+大腿骨外反骨切り術などの関節温存手術により、骨軟骨の再構築を期待する。
- 壮年期以降の進行期・末期股関節症に対しては、人工関節置換術により確実な除痛をし、筋力、関節可動域といった関節機能の向上を図る。
関節温存手術
関節温存手術とは文字どおり自分の骨関節を温存したまま股関節痛を軽減し機能回復を図る手術法です。人工関節置換術に相対する言葉ではありますが、その意味合いは大きく異なります。すでに述べたように関節温存手術と人工関節置換術では適応となる年齢や病期が異なるため、同じ土俵で比較するようなものではないということです。
寛骨臼回転骨切術 左:手術前 右:手術後 | |
寛骨臼回転骨切術(骨モデル) 左:手術前 右:手術後 |
特に若年者の前関節症、初期股関節症におこなわれる寛骨臼回転骨切り術などでは、まだ疼痛も軽度で股関節の機能(筋力や関節可動域)の低下も明らかでない時期が最もよい手術のタイミングになります。少し痛みはじめた関節軟骨をこれ以上減らさないための手術であることからなるべく病気の進まないうちがよいというわけです。こういった状況で手術を選択するには、患者さん自身の病気に対する十二分な理解と術後のリハビリテーションに対する前向きな姿勢が必要となります。つまり「」股関節症は進行性であり、徐々に股関節痛の増強とそれに伴う筋力低下や関節可動域の低下を生じ、歩行をはじめとする日常生活動作に支障をきたす病気であること。」「将来人工関節手術が必要になる可能性があること。」「人工関節も日々、進歩はあるものの万全のものではなく生体の関節に比べれば遠く及ばないこと。」以上から自身の関節の形を整えることで最大限にその機能を発揮できるようにするために手術が必要だということです。
一方で若年者の重度股関節症(進行後期・末期股関節症)に対する関節温存手術では、関節軟骨もかなり痛み、関節を構成する骨も様々な変化が生じてしまった状態を生体の再構築(remodeling)能により安定した関節にすることが目的となります。再構築の力を導き出すための環境を創り出すことが目的とも言い表わせます。具体的には変形してしまった臼蓋や大腿骨頭の向きを変えることで荷重の分散を図ったり、関節面にかかる合力を調整することで荷重部を変更させたりすることです。前者の関節温存手術は正常股関節の形状に近づけることが目標になりますが、それに比べ、進行期や末期股関節症に対する温存手術は、個人個人にあった大腿骨骨切り術、骨盤骨切り術、筋解離術を組み合わせておこなうことで、悪いなりにも住み心地のよい状況を創りだすことが目標となるのです。そのためには正常とは多少異なった形態となることも考えられますが、将来人工関節置換術が必要になった時のことを考慮し手術内容を組み立てることも重要となるのです。