目次
変形性股関節症とは
▽股関節の形態
▽変形性股関節症の原因
▽変形性股関節症の進展様式
▽病期とレントゲン像の評価
▽増殖型と萎縮型
治療法
▽治療の原則
▽関節温存手術
人工関節手術とは
▽人工股関節置換術
▽低侵襲(ていしんしゅう)手術と早期回復について
小児の股関節疾患
[1] 先天性股関節脱臼
[2] 乳児化膿性股関節炎
[3] ペルテス病 大腿骨頭の骨端軟骨の障害
[4] 大腿骨頭すべり症
よくある質問
小児の股関節疾患
[1] 先天性股関節脱臼
(最近は先天性という表現は使われなくなりつつあります。)
母体内での姿勢や肢位、関節弛緩性などによるとされますが明らかな原因は不明です。通常は乳児4か月検診で足の開きが悪いこと(股関節の開排制限)でチェックされます。診断の確定にはX線検査(レントゲン撮影)や超音波検査(エコー)がおこなわれます。以前は保健所(保健福祉事務所)で整形外科医による二次検診がおこなわれていましたが、その発症数が少ないことを理由に現在ではおこなっている自治体はほとんどありません。
そのためか所謂検診で見逃されてしまう先天性股関節脱臼児が少なからず存在し、問題となっています。最近も幼稚園児となり保育士に歩容の異常を指摘され、股関節脱臼が発見されたお子さんを二人経験しました。発生頻度(0.2%程度)が低い疾患は出生数の減少に伴い医療者側も経験する機会がより減り、検診の精度に影響が現れるのではと懸念されています。
乳児4か月検診で足の開きが悪いと指摘されたお子さんの大半は股関節脱臼ではなく、向き癖による開排制限であることがほとんどです。向き癖とは新生児に見られる原始反射(物音などでからだを反らせたり、手足を緊張させる)や生後2か月くらいまでは運動発達が未熟であまり下肢を動かさないために右か左の一方ばかり向いている状態です。もし右の向き癖であれば左の股関節を閉じている傾向となるため左股関節の開排制限が生じやすくなります。特に予定日より早く出産されたり、低体重のお子さんは月齢より運動発達が未熟なために開排制限を認めることがしばしばあります。また向き癖の強いお子さんは後頭部のどちらかが扁平化(絶壁頭?)していてお母さんが気にしていることもあります。
先天性股関節脱臼と診断されたら、まずリーメンビューゲルと言うつりバンドの装具で治療します。一見、赤ちゃんにやさしい装具治療に見えますが、この装具の調整具合や装着方法によっては幼弱な大腿骨頭の障害を起こしてしまうことがまれにあります。リーメンビューゲルの装着や管理を義肢装具士(装具屋さん)に任せているような整形外科医はこの治療をおこなう資格が無いと言っても過言ではないでしょう(発生頻度が少ないため整形外科専門医でも治療経験の乏しい医者が増えています)
中にはリーメンビューゲルで整復されない赤ちゃんがいます。この場合、いったん装具から開放し再び装着する場合があります。それでも整復位が得られない場合(難治例)には入院していただいて牽引療法をおこない、その結果で手術による整復も考慮します。先天性股関節脱臼は先人の正しい育児指導の啓蒙によりその発生率は激減しました。しかし、最近では僅かに発生率が増加しているとも言われ、特に難治例の割合が増えているとされています。私が長年、股関節脱臼の二次検診を担当していた厚木市では(愛川町を入れて、当時の厚木保健福祉事務所管轄)年間の出生数が2000程度ですから4〜5名の股関節脱臼の赤ちゃんが誕生している計算になります。リーメンビューゲルで整復されない場合や乳児期を過ぎてから脱臼がわかった場合には迷わず小児股関節疾患を専門としている整形外科医にかかられることをお勧めします。
[2] 乳児化膿性股関節炎
細菌が主に血行を介して股関節におよび化膿性の炎症を起こす疾患です。主な症状は機嫌が悪い、下肢を動かさない、おむつを換える際泣く、熱があるなどで、風邪に引き続いて発症することもあります。乳児の大腿骨頭はほとんどが軟骨でできており、非常に幼弱なため化膿により大きなダメージを受けます。結果、骨頭の変形を生じたり、骨頭が消失してしまい将来、変形性股関節症となるため早期の診断、治療開始が必要です。本疾患が疑われた場合、股関節を穿刺し、膿の存在を確認します。膿が認められた場合は関節の洗浄(通常は手術的に関節を切開します)が必要です。緊急を要する疾患のひとつに挙げられます。