目次
変形性股関節症とは
▽股関節の形態
▽変形性股関節症の原因
▽変形性股関節症の進展様式
▽病期とレントゲン像の評価
▽増殖型と萎縮型
治療法
▽治療の原則
▽関節温存手術
人工関節手術とは
▽人工股関節置換術
▽低侵襲(ていしんしゅう)手術と早期回復について
小児の股関節疾患
[1] 先天性股関節脱臼
[2] 乳児化膿性股関節炎
[3] ペルテス病 大腿骨頭の骨端軟骨の障害
[4] 大腿骨頭すべり症
よくある質問
人工関節手術とは
人工股関節置換術
人工股関節置換術とはすり減った軟骨と傷んだ骨を切除して金属やプラスチックでできた人工の関節に置き換える手術です。
人工股関節は金属製のカップ、骨頭ボール、ステムからできており、カップの内側には軟骨の代わりとなるプラスチックでできたライナーがはまるようになっています。
人工股関節 |
低侵襲(ていしんしゅう)手術と早期回復について
従来の切開 低侵襲の切開 |
低侵襲手術とは、手術によって患者さんの体を傷つける量をできるだけ少なくして行う手術ことです。
近年、様々な手術において、できる限り身体への侵襲を小さくしようとする工夫がなされる傾向にあります。例えば胆石の手術は従来、腹部を15cmほど切開し行われていましたが、15年ほど前より腹腔鏡を用いて4箇所に1〜2cmの創を加えるだけで行えるようになり早期離床、早期の社会復帰が可能になりました。現在ではこれが標準的な手術方法になっています。
拡大 | |
実際の切開の痕 |
人工股関節置換術においても手術創を小さくし、筋肉などの軟部組織になるべくダメージを与えない手術法が開発されてきました。手術創で言えば従来15〜20cmであったものが6〜8cm程度に短縮され、外観上の手術創の小ささだけでなく筋肉や靭帯(じんたい)などの軟部組織への侵襲を少なくすることで術後の痛みを軽減し、早期のリハビリテーションが可能になりました。
その結果、臥床(がしょう=ベッドで安静にしていること)期間を短縮し廃用性(=使われないことによる)の筋力低下を予防し、速やかな機能回復ができるようになってきました。特に高齢の方や術前に股関節機能の低下が著しい方は安静臥床による筋力低下、機能低下が強く出現する可能性が高いため、早期離床のメリットはより大きいものと考えられます。
さらに術後、早期に荷重歩行を行うことで深部静脈血栓症(=いわゆるエコノミークラス症候群)の予防、術後の内科的合併症の予防にも有効と考えられます。
アメリカでは医療制度、医療費の違いもあって人工股関節置換術も日帰り手術で行われています。日本においては国民性の違い、股関節症の発症原因の違いがあるためアメリカと同列には考え難いのですが、この点を考慮すると、これまで4〜6週間程度であった手術から退院までの期間は、10日から3週間が妥当と考えられます。
どのような方が低侵襲(ていしんしゅう)手術の対象か
基本的にはほとんどの人工股関節手術の対象患者さんに低侵襲手術が可能です。しかし、股関節の解剖学的異常が高度な場合や関節可動域が著しく悪い場合(高位脱臼、強直股関節など)には低侵襲手術が適用できない場合があります。
また、手術後のプログラムの進行は患者さんの手術前の身体機能や反対側の股関節の状態に大きく影響を受けますので、ある程度個人差が生じるものと考えられます。
例えば40歳代の大腿骨頭壊死(えし)症では数日の術後プログラムで退院が可能でしょうし。しかし、ほとんど外出が困難な状態まで機能低下をきたした股関節症の方では退院後に安全な日常生活動作を行えるようになるためには一か月程度の術後プログラムが必要と考えられます。
早期荷重、早期退院を可能にするためには、適切な手術手技と的確な術後プログラムが必要ですが、それにもまして患者さんの理解と協力が重要となります。
治療を行うにあたって
人工股関節はその開発から70年の年月を経て著しい進歩を遂げ、股関節症の治療にはなくてはならない存在といえます。高齢化社会に向けて「歩く」ことの重要さと、歩行に障害を生じることのリスクが大きな問題となっています。この点からも股関節症が重度とならないうちに積極的に人工股関節の手術とリハビリテーションを選択することが理想です。